抗インフルエンザ活性のあるpeptide drugの開発


ウイルス生活環と抗ウイルス剤

 インフルエンザウイルスはヘマグルチニン(HA)が細胞表面のシアル酸を含む糖鎖(シアリルガラクトース, Neu5Ac-Gal)に結合することから感染が始まる(図1)[1]。ウイルスはエンドサイトーシスされて細胞内に侵入し、脱殻してウイルスRNAゲ ノムが核内へ移行する。その後複製および転写によって増幅され、エンベロープタンパク質とともに再構成されて出芽し、ノイラミニダーゼ(NA)の働き(Neu5Ac-Galを切断する)によって細胞表面から放出される。抗ウイルス剤はこれらのステップのいずれかを阻害することでウイルスの増殖を防ぐ。タミフル(もしくはリレンザ)などのノイラミニダーゼ阻害剤は出芽に関わるNAの阻害剤であり、シアル酸の誘導体である。すでに抗ウイルス剤の耐性株は発生しており、常に次の新しい薬剤の開発が望まれる。

図1 ウイルスの生活環と日本で認可されている抗ウイルス剤とその作用部位。
図1 ウイルスの生活環と日本で認可されている抗ウイルス剤とその作用部位。

HAによる糖鎖認識

 現在、感染過程を阻害する抗ウイルス剤がない。われわれの研究グループでは感染の最初のステップであるHAがNeu5Ac-Galに結合する過程を阻害するペプチドを得ることを試みている。Neu5Ac-Galの結合様式は2種あり、α2-3型とα2-6型がある。ヒトはα2-6型 (Neu5Acα2-6Gal)、トリなどではα2-3型である。ブタはα2-6型およびα2-3型Neu5Ac-Galに結合するため、ブタを介 してトリのウイルスがヒトへ伝播していくと考えられている。Neu5Ac-GalとHAとの相互作用を阻害するペプチドは、抗ウイルス剤としての可能性がある。

図2 HAが認識する糖鎖受容体の構造と結合部位のX線結晶構造解析(文献2)。
図2 HAが認識する糖鎖受容体の構造と結合部位のX線結晶構造解析(文献2)。

HAとNeu5Ac-Galとの相互作用を阻害するペプチド

 インフルエンザウイルスのヘマグルチニンが細胞表面のNeu5Ac-Gal構造を認識し、細胞に感染することが知られている。ウイルスの糖鎖との結合を阻害し、感染阻害を行うことができるな分子は抗ウイルス剤として利用できる可能性がある。

 

 HAとNeu5Ac-Galとの相互作用を阻害するためには、方法が2つ考えられる。

1)糖鎖に結合するペプチドで細胞側をブロックする

2)HAの糖鎖結合ポケットに結合するペプチドでウイルス側をブロックする

 われわれは両方取り組んでおり、まず糖鎖に結合するペプチドの成果を紹介する。

 

Neu5Ac-Galに結合するペプチド

 細胞表面は糖鎖で覆われており、HAの糖鎖受容体であるNeu5Ac-Galを有する複合糖質が存在する。スフィンゴ糖脂質である Neu5Acα2-3Galβ1-4Glc1-1'Cer (GM3)はNeu5Ac-Gal構造を有しており、HAの受容体として報告されている。本研究では、GM3に対してファージ提示法によるランダムペプチ ドライブラリーからの親和性選択(バイオパニング)を行った[3]

 同定された15残基のGM3結合性ペプチドのうち、c01配列およびc03配列が高い結合活性を示した (図3)。c01配列を持つファージクローンはB16細胞に結合し、酵素処理でシアル酸を除去した細胞には結合しなかったことから、シアル酸を介した相互作用が示唆された。

図3 Neu5Ac-Galに結合するペプチドの同定。
図3 Neu5Ac-Galに結合するペプチドの同定。

 このペプチドのN末端をアルキル基修飾したC18ペプチドを調製した。このC18ペプチドは脂質を有しているために自己集合する。蛍光剤および粒子径測定による結果から、このC18ペプチドは1μM以上の濃度で会合していることがわかった。そこで0.1μM-1 mMの範囲でインフルエンザウイルスとMDCK細胞に対して共投与したところ、c01配列はH1型ウイルスに対してIC50=3.2μMで感染阻害活性を示した (図4)。同様にc03配列も同程度の阻害活性を示した。

図4 Neu5Ac-Gal結合ペプチドによる感染阻害。
図4 Neu5Ac-Gal結合ペプチドによる感染阻害。

 GM3結合性ペプチドはウイルスと細胞表面の相互作用を阻害し、その結果感染を抑制することが示唆された。ここでペプチドは自己集合することにより、多価の効果で糖鎖との結合親和性を相対的に向上できていると考えられる。ウイルスの感染阻害を行うことができるこのような分子は抗ウイルス剤として利用できる可能性がある。

 

References

(1) 加地正郎編, インフルエンザとかぜ症候群, 南山堂 (2003).

(2) Gamblin, S.J. et al., Science, 303, 1838-1842 (2004).

(3) T. Matsubara, M. Sumi, H. Kubota, T. Taki, Y. Okahata, and T. Sato, Inhibition of Influenza Virus Infections by Sialylgalactose-Binding Peptides Selected from a Phage Library, J. Med. Chem., 52 (14), 4247-4256 (2009).